君と桜と
「え、全然気付かなかった!」
「それと奈緒、かわいい奈緒ちゃん。
君の演技は先生たちに人気でね。PTAの連中がこぞってくるとか来ないとか・・・」
「え、わ、私!?」
「とにかく、坂城、奈緒、稼ぎ頭だからね。しっかり頼んだよ!」
監督さんはメガホンでバシバシ、と坂城くんと奈緒の背中を叩いて激励を送ると、きた時と同様、突然戻っていった。
「そんなこと、急に言われても、心の準備ができないよなあ。ね、なっちゃん。」
「う、うん・・・なんか緊張してきちゃた。」
自分の演技の評判がどうとか、そういうこと以前に、今になってやっと主役の重みの実感が湧いてきたのだ。
「ああ、もう。プレッシャーなこと言うから!」
坂城君は落ち着かない様子で狭い舞台裏を行ったり来たりし始めた。
「わたし、ちょっと外の空気を吸いに行ってくる・・・」
そういった奈緒の声も、坂城君に聞こえていたのかはわからない。