君と桜と
廊下に出ると、普段の学校とは比べられない量の人が行き来していた。
看板を持って、クラスの宣伝をする生徒。
ピエロや魔女のような格好をしているのは、劇に出る子達なのだろう。
普段はロッカーがある場所はクラスの演目をモチーフにした看板に覆われていて、何日か前までここが教室であったことを忘れてしまいそうだ。
奈緒は廊下の突き当たりに向かって歩いていった。
隣の7組も、様々な衣装に身を包んだ生徒たちが出入りしている。
7組の教室の横にある扉を開け、外に出た。
ドアをしめるとふっと喧騒が遠のく。奈緒は非常階段に出てきたのだ。
「気持ちいいなあ。」
心地よい風が吹く晴天は、まさに文化祭日和といった感じで。
「でも、雨でも降ってくれたら緊張しないで済んだかな」
「なに、今さらナーバスになってんの」
「なにっ?」
突然声が聞こえて、奈緒は手に持っていた台本を落としてしまった。
音もなく現れた隆司は、台本を拾うと、こちらに向かって階段を登って来る。
「どど、どうやって入ってきたの?」
声をかけられるまで、隆司が入ってきたことに全く気づかなかった。