君と桜と
「はあ・・・
もう行かないとなのに、どうしようもないんだもん。」
「代わってやることはできないけど。」
隆司はそう言うと、サッと奈緒の頭に触れた。
「緊張しないまじないをかけとく。」
隆司まで訳のわからないことを・・・?
気になって、見上げると何故か目をそらされてしまって。
「おまじない?」
そっと、問いかけるとまた、視線が戻ってきた。
「頭、触ってみれば分かる。」
さっき触れたときに、何かしたのかな?
そっと自分の頭に触れると、そこには先ほどまでなかったはずの物がついていた。
「これは・・・」
鏡を持っていないので見ることはできないけれど、形と触り心地で、それが何か分かった。
「うん。これで、か、可愛くなったんじゃないか?」
珍しく少し頬を染めてそんな事を言うから、こっちまで恥ずかしくなってきて、今度は奈緒の方が視線をそらしてしまった。
「あ、あの時のお花だよね?
ありがとう。」
「俺の傑作だからな。それをつけてれば失敗する訳がない。」
そう、あの日、奈緒の不器用さを見兼ねて隆司が作ってくれたお花だった。
隆司はなぜか自分で作った物をずっと持っていたのだろう。
それは、隆司の言う通りおまじないのようで。
不思議と落ち着いて、頑張ろうという気持ちが湧いてきた。
「隆司、ありがとう。」
奈緒は立ち上がると、今度はきちんと隆司を見て伝える。
「さあ、行こうか?」
隆司は満足そうに微笑むと、奈緒に手を差し出した。
これも何かの魔法なのだろうか、
奈緒は躊躇うことなくその手を取って、隆司について歩き始めた。
まるで王子様がお姫様をエスコートするように、隆司は非常階段の扉を開けて通してくれた。
廊下に戻ると、先ほどまでの喧騒が戻ってきた。
でもそれはもう、奈緒を追い詰めるものではなくなっていて。
流石にもう手は繋いでいないけれど、隆司は教室のドアまで送ってくれた。