君と桜と
下校途中、急にあの景色が見たくなって久しぶりに公園に行こうと思い立った。
隆司が誘ってくれることはなかったし、
家とは反対方向なので、結局あれ以来行けていなかったのだ。
今日はピアノのレッスンもないし、たまには寄り道をしてもいいだろう。
学校の前の坂をゆっくりと歩いて行くと、あの日自転車で下っていった時のようなスリルはもちろんなくて。
コートを着込んでマフラーに顔をうずめている今は、夏の暑さを思い出すことができない。
寒いこの時期にはどの家も窓を締め切っているので、相変わらず静かだ。
1人でこの住宅街を歩くのは、少し淋しい感じがした。
公園の前に着くと、何日か前に降った雪がまだ残っているようで、石垣が所々白く染まっていた。
鬱蒼と生い茂っていた木々の葉は全て落ちてしまっていて、緑で一杯だった公園内も、今は白と茶色になっている。
確か、ここだったよね?
奈緒は道をそれ、1番奥の茂みに入っていく。