君と桜と
茂みを抜けると、オレンジ色の光が目に飛び込んできた。
「わあっ・・・!」
ちょうど向こうの山に夕日が沈もうとしているところだった。
オレンジから青のグラデーションが息をのむほど美しい。
高台にあるこの場所からはフェンス以外に遮るものはなく、自分が空に浮いているような錯覚を覚える。
隆司が言っていた通り、雲だけがオレンジに染まっていて。
普段学校や家の窓から見る空とは同じようでいて、まったく違うものだった。
まるで空の方から迫ってくるような迫力がある。
独り占めしているのが勿体ない景色だった。
隆司は、この景色を見ながらなにを思ったのかな。
ふとあの時の、どこか違うところを見ていたような瞳を思い出す。
「今は、無理なんだ」
そう言った彼は、何かを抱えていたの?
もしそうだとしたら、いまもまだ・・?
奈緒は寒さも忘れてその場に立ったまま、刻々と変わっていく空を太陽が完全に沈んでしまうまで眺めていた。