君と桜と
ふと顔を上げて窓の外に目をやると、ちょうど隆司が校門に向かって歩いているのが見えた。
「隆司っ・・・」
普通に考えて、決して聞こえるような大きさの声ではなかった。
それなのに、偶然かどうか隆司はゆっくりと振り返ったのだ。
奈緒の姿を見つけると、一瞬びっくりしたような顔をしたけれど、すぐに手を振ってくれた。
どこか悲しげな笑顔を浮かべながら。
普段だったら気付かなかったかもしれない。
でも、今日はクラス最後の日だから。
それとも、何か予感のようなものがあったのか。
隆司の笑顔の奥に隠された、悲しみが見えたのだ。
「そんなに、悲しそうに笑わないでよ・・・」
我慢しきれなかった涙が一筋流れ落ちた。
奈緒は小さくなってゆく背中を見つめながら、言い知れぬ寂しさに襲われていた。