君と桜と
持ち帰る教科書を纏めながら、教室の窓から桜の木を見つめる。
去年よりも一階分下がっているので、見下ろすようにして見ていたのが、目線の先にちょうど見えるようになった。
「桜、一緒に見たかったな・・・」
もう5月も近いので、桜の花はすっかり散ってしまっていた。
授業終わりと、部活の開始時刻の間のためか、校庭にはまだ部活の生徒は出てきていなかった。
だから、何気なく校門の方に目をやった時、すぐにわかった。
向こうから歩いてくる人影が、隆司だということを。
「あっ・・・」
バサバサッ!
持っていた教科書を落としてしまったけれど、そんなの目に入っていなかった。
ちょっと前まであれこれ考えていたことは全て吹き飛んでしまって、今は、とにかく少しでも早く会いたい、ただそれだけで頭がいっぱいだった。
「ちょっと、箕輪さん、どうかしたの?」
教科書が落ちる音に驚いた日直さんが声をかけてくれたけれど、きちんと答える余裕なんかなくて。
「う、うん、大丈夫。」
短くそれだけ答えると、教科も拾わずに教室を飛び出した。