君と桜と


「あーあ・・・。
たまには遊びたいなあ・・・」


奈緒は椅子の上にひざ立ちして、窓から乗り出して外を眺めている。
今日は暑いけれど風があるためカラッとしていて気持ちいい。



「でも、ヒロイン様は練習が忙しいんだろ。」


隆司は相変わらず本を読みながら奈緒に返事をする。



「別になりたくてなった訳じゃないもん・・・。」



文化祭に憧れて入ってきたとはいえ、夏休みだというのに、ここまで極端に忙しいのも少し疲れてしまう。


「じゃんけん弱すぎんのがいけないんだよ。」


少し馬鹿にしたようにフッと笑って言う隆司に、奈緒はなにも言い返すことができない。


最初はほどよくセリフもあり、歌の場面もある端役をやる予定だったのに。


奈緒はその役が気に入っていたのだが、ヒロイン役に立候補する女子が出なかったので一度全員で決めなおすことになったのだ。

全員でじゃんけん大会をしたところ、見事に奈緒が一本負けしたのだった。


嫌々ながらも演技も上手く、役にもハマッているとなかなかの評判だ。


ちなみに相手役の主人公は坂城君だった。

もっとも、彼は周りからの熱烈な推薦で決まったのだが。




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