君と桜と
主役の二人は出演シーンが多いため、毎日演技や歌の練習があったし、小道具など裏方の仕事も全員で分担しているため、練習のない時間はそうした作業で手を休める暇がなかった。
今は舞台を組み立てる段階に入り、一時練習が中断されたために奈緒にとっては束の間の休憩時間なのだ。
ぷーっと頬を膨らませた奈緒をみて隆司はパタンと本を閉じ、真剣な顔で見つめてきた。
奈緒はその瞳に捉えられ、動けなくなってしまった。
なな、何・・・?
色々話すようになった今でも、奈緒は隆司の考えている事が分からないことが多かった。
「・・・抜け出すか?」
「へっ?」
「そっちが遊びたいっていい始めたんじゃん。」
「う、うんっ
えっ、と一緒にサボってくれるのっ?」
「箕輪、どうせ一人じゃ勇気ないだろ?」
隆司はニヤッと意地悪く笑った。
「そうだけど・・・」
奈緒はからかわれているのは分かっていたけれど、顔がゆるむのが抑えられない。
‘さん’が消えた呼び方にも、距離が近づいたのを感じて嬉しい、なんて三谷君には言わないし、そもそもそんなことを言う勇気なんてない。
「じゃ、行くぞ。」
「うんっ」
勢いよく立ち上がった隆司につられて奈緒も立ち上がる。