君と桜と
しばらくして、三谷君は静かに話し始めた。
「・・・ここ、夕日が沈むのもよく見えるんだ。」
「見てみたいなあ。」
今日は学校に戻らなければいけないので夕日は見られないだろう。
「ちょうど今日みたいに少し雲が出ていると、雲だけがオレンジに染まって、その上の空は青いままで。
それが、すごく綺麗なんだ。」
そう言った三谷君は、まるでその瞳に今も夕日を映しているいるかのように、どこか遠くを見つめていた。
その瞳は単に過去を思い描いているというだけではなく、なんとなく影がある気がした。
なにか、夕日に関する悲しい記憶があるのだろうか。
「今度は、放課後に来たいな!」
三谷君の視線を現在に引き戻したくて、奈緒はそう言った。
「・・・また来れば?
あんまりたくさん人が来るようになるのはいただけないけど。
自由にどうぞ。」