君と桜と


そう言って微笑んだ三谷くんの視線は奈緒に向いているけれど。



奈緒の心の奥底では、モヤモヤした気持ちが広がっていた。

本当は、また奈緒を連れてくる、という言葉を期待していたのだ。


なんて勝手で、欲張りな心なのだろう。


「・・・でも、やっぱり、だめだよ。三谷君の秘密の場所なんだから。」


心とは裏腹にそんなことを言ってみるのが、奈緒にできる精一杯の強がりだった。



「もともと俺の所有地でもないから、立ち入り禁止とかできないし。

ただ、独り占めしたくて黙ってただけで・・・
だから、箕輪も来たい時に、来ればいい。」


三谷君の言葉は優しく、でも本当に奈緒が望んでいることを言ってはくれない。


「私に教えちゃった時点で独り占めできないよ?」

「じゃあ・・・二人占め?」



無邪気に笑う三谷君を見て、なぜだか少しだけ苦しくなった。




< 66 / 205 >

この作品をシェア

pagetop