君と桜と
「・・・こっちに。」
落ち着いた声にそう言われて奈緒が顔をあげると、三谷くんは無表情だった。
遠慮がちに奈緒の手を取ると、そのまま教室から反対方向に歩き始めた。
ガラガラ・・・
「座って。」
三谷君が連れてきたのは、図書室だった。
夏休みなので司書さんさえいないようだ。
静かな部屋の中には窓の外のセミの鳴き声が聞こえてくる。
しばらくすると、三谷君が新しい本を持って奈緒の向かい側の席に座った。
「落ち着くまでいればいいよ。
一人になりたければ俺も出て行くし。」
ぱらっとページをめくる音が心を少し落ちつかせてくれた。
「・・・ありがとう。」
奈緒はそっと首を振ってそういった。
「ん。」
「・・・」
三谷君は何があったのかは聞こうとしない。
けれど、その無言は‘話しても、話さなくてもいい’を示している。
そう感じられた。