君と桜と
「いつからやってたの?」
「何が?」
「ピアノ。」
「3歳からだよ。」
時折涼しい風が吹くようになったこの日。
劇の練習の合間に、奈緒と三谷君はいつものように並んで窓際に座っていた。
三谷君は唐突に奈緒にこんな質問をしてきたんだ。
あの日のことは、何もなかったのかのように接してくれていたのに。
もしかすると、奈緒の気持ちが前向きになり始めていたことを察していたのだろうか。
「すごいな。」
「ううん。小さい頃からやってる子なんていっぱいいるし、私は中2の時に教室やめちゃったから・・・でもね、まだ人前で弾くのは怖いけど、また通い始めてもいいかなって思ってるんだ。
三谷君のおかげだよ・・・ありがとう。」
奈緒の笑顔はすっきりと晴れ渡っていた。
「聴ける日を楽しみにしてよう。」
三谷君も心なしか上機嫌のよう。
「・・・あんまり、期待しないでね?」
「やだ。期待する。」
「いじわる!!」
「ハハッ・・・やっぱり面白い。
・・・自信もってやれよ。」
そういって笑った三谷くんは、一瞬、眩しいものを見るように目を細めた。