君と桜と

想い、重い?



「はーいっ。カット!!全然だめ。奈緒、集中して!」


監督がメガホンを持ってギロリと奈緒に睨みを効かせる。

8月も後半に入ると、演技の練習は本格的になり、監督もだいぶピリピリしていた。


「ごっ、ごめんなさい」

「もう一回今のシーンからね!!」


集中っ!集中しなきゃ!
頭の中雑念ばっかりだから怒られちゃうんだ!


奈緒は自分に喝を入れて演技に戻った。


なぜ奈緒が演技に集中できないのか?


その理由は、窓際に座る三谷君にあった。


教室の前半分を舞台として、後ろ半分は客席になっていた。
だから舞台で演技をしていれば必然的に客席側が目に入るということだ。


出演しない裏方のメンバーは、先ほどまで廊下で宣伝用の看板や、教室の飾りの準備をしていたのだが、緊張感を出すために観客役として教室内に呼ばれていた。


三谷くんはここぞとばかりに読書をはじめているけれど。


傾き始めた夏の太陽に照らされ、窓際で読書をする姿はなんだか神聖な雰囲気が漂っているように思える。


三谷君の整った顔が余計に美しく見える・・・ってダメだっ!!
私また見とれてた!!



文化祭本番が迫っているというのに、奈緒の頭の中は別のことでいっぱいになっていた。
緊張感どころか地に足が着いていない状態である。



自分の中の「欲張な感情」に気づいてからというもの、その気持ちは膨らむ一方だった。
もし三谷君がほかの誰かと付き合うことになったら。
あの優しくてかっこいい笑顔でほかの誰かを見つめていたら。







< 84 / 205 >

この作品をシェア

pagetop