君と桜と


「はあ、わからない。」


ようやく演技の練習から解放された奈緒は、またもや答えのないモヤモヤの中にいた。



文化祭に向けて気分が高揚しているとか、
感覚までとろり溶かしてしまいそうな暑さが続いているとか。


隆司のことを意識してしまう理由をいくつも挙げてはああでもない、こうでもないと一人で悩み続ける。



隆司は独特の魅力を持っていた。
無造作に流された黒髪、強い意思をもったまっすぐな瞳。
その一つ一つが隆司の人柄を示しているようで。



女の子に騒がれ、みんなに好かれる坂城君のようなタイプではないにしろ、密かに憧れている子は少なくないだろう。


いつ、誰に告白されてもおかしくない。
第一、そんな素振りを見せないだけで本人に好きな人がいないとも限らない。


ああどうしよう。

友達として、他の女の子より仲がいい自覚はある。
お互いに色々話すようになったし・・・。


学校では無口だった三谷君が、私とは話してくれることはすごく嬉しい。

でもそれって、よくも悪くも‘友達’ってことであって。


もし、三谷くんが誰かと付き合い始めたりしたら、私はもう仲良くできないのかな。




わたしは、どうしたらいいの。


どうすることが、どう思うことが、正しいの?





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