星の輝く夜に
長い1日の始まり
辺りを見渡しても彼女の姿は無く、


車に戻ってきた彼の背中はいつも以上に丸まっていた。


「何が『死神』だ・・・」


そんなおとぎ話にしか出てこない名前を言われ、


信じろというのがそもそもおかしな話だ。


新手の詐欺かもしれない。


最近は詐欺の手法にも色々ある。


最近はよく、覚えのない懸賞から「当たりました」との通知もくる。


喜ばせるのではなく、怖がらせるパターンも良くある手口だ。


ふん、と彼は鼻で笑って、運転席のドアを開けた。


車に乗り込むと、暖房をつけているというのに、車内は妙に肌寒い。


春は近いとはいえ、まだ吹き付ける風は、冬の香りしか運んでこない。


彼は急いで、暖房を強くさせるために、つまみを握る。


しかし。


「・・・あれ」


すでに、つまみがに書かれた矢印は、最高温度に設定されていた。


急激に、先ほどの乗客の声が、やけにリアルに迫ってくる。








『24時間後がタイムリミットです』


しかし、タイムリミットとは、言い得て妙、というか。


もともと人間の人生など、終わるしかないものなのだ。


そう思えば、死ぬなんて、いつ来たっておかしくない。


むしろ、それを事前に知ることが出来るのは、幸いなのかもしれない。


彼は、車を発進させること無く、


ハンドルに両腕を乗せて、1人、言葉を零した。






「・・・俺、死ぬのかな」





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