星の輝く夜に
彼の足が再び止まったのは、パチンコ店から出て5分後、
彼が頻繁に立ち寄る牛丼屋のチェーン店だった。
いつも、最安値の牛丼のつゆだく並盛を頼んでいる。
最近は、それすら食べきるのがしんどくなってきていた。
年のせいにしていたが、
どうやら、そうでもないらしい。
来るのは、これで最後だろうか。
最後の晩餐が牛丼屋とは、何とも寂しいものがある。
しかし、これ以外に行くべきお店も無い。
彼はそのまま、常連のお店の暖簾をくぐった。
職権販売機の前で、彼は財布を取り出す。
いつもであれば、100円玉3枚入れれば、お釣りすら出てくるのだが。
彼は少し躊躇したあと、1000円札を取り出した。
そして、
お釣りはほとんど出ることなく、彼は何枚も出てきた食券を、
カウンターの店員に差し出す。
「つゆだくでね」
「牛丼並、ねぎだく、肉だく、キムチ乗せ、つゆだくね!」
つたない日本語で店内に響き渡る声を聞いて、彼は少しだけ後悔した。
しかし、彼は思い直す。
むしろ、ここが最後の晩餐で、ここで贅沢をするのも、それはそれで乙かもしれない。
今までできなかったことを、しているのだから。
5分もかからずに出てきた、山もりの牛丼に箸を刺し、
彼はいつもと同じペースで、それを食べ始めた。