星の輝く夜に
最期の日の始まり
「あれ?珍しい、どうしたの」
運転席の窓をたたくその姿に気がついた彼は、窓を開けた。
「いやね。ちょっと目が覚めたから」
「そうかい。俺だったら最近できた駅前の店に並ぶけどなぁ」
次の日の朝。
いつもの駅前のロータリーに、タクシーが集まる所に彼はいた。
いつもであれば、昼過ぎくらいに出勤する同僚を、
物珍しそうな顔で、彼の乗るタクシーに近づいてきたのは、
同じタクシー会社の、唯一の友人だった。
知っているのは、名前だけ。
年齢は、同じくらいだろうか。
互いの過去も、
素性も知らない。
自分の話を聞いてほしくないし、
相手の話も聞こうとも思わない。
ただ、お互いがパチンコ好きという共通の趣味があったため、
その話で盛り上がるぐらいだった。
「朝飯は食った?」
その同僚は、右手に何かをぶら下げていた。
「いや」
食欲など無い。
しかし、正直な話をする気にはなれない。
「そうか。ちょっとたくさん買っちまったから、
少しもらってくれ」
同僚は、助手席を指差した。
ドアを開けろ、という意味だろう。
彼はおもむろに、運転席に設置されたドアを開けるボタンを押した。