星の輝く夜に
列の先頭が彼の運転するタクシーになった。
彼は新聞を読むのをやめ、勘に残った缶コーヒーを一気に飲み干していると、
後部座席のドアの外に人影が出来たのが、ミラー越しに見えた。
彼はドアを開けるためのボタンを押すと、すかさずその人が乗り込んできた。
乗り込んできたのは1人。
フロントミラーに映るのは、若い女性。
まっ白い肌に、黒く長い髪がよく似合う。
少しミステリアスな雰囲気を纏ったその女性は、
赤い口紅が引かれた口を、少し動かして、呟くように言った。
「走らせてください」
「え?」
行き先すら告げす、彼女はそう言うだけだった。
「お客さん、それは困りますよ。どこに行けば良いんですか」
「どこでも良いのです。お金はありますから」
「そういう問題じゃないんですよ」
呆れ声でそう言い放つと、彼女は表情1つ変えず、小さくつぶやく。
「それでは、隣町まで」
「了解しました」
彼はアクセルペダルを踏んで、タクシーの列を抜け、
隣町への道を走りだした。