星の輝く夜に
窓の外を流れる景色は、いつもと同じ。
生まれてずっとこの街で暮らしているから、この街の道はほとんど分かる。
タクシーを走らせてから、後ろに座る乗客は一言もしゃべらない。
別にそれは珍しい事ではない。
彼は普段、乗客とほとんど喋らない。
乗客が話しかけてきても、「はい」「いいえ」しか言わないから、
会話も進まない。
別に客と会話をして楽しいとも思わない。
だから、沈黙の車内も、彼にとっては普通の雰囲気だった。
フロントガラス越しに見える後部座席の客は、窓にへばりつくように
外を見ている。
初めて来るのだろうか。
しかし、さっき、目的地を言わずに車を走らせるよう言った。
この街は、京都のように、観光用のタクシーがある訳ではない。
特に街をタクシーで周る程の観光できる場所がある訳ではない。
そう考えると、益々不思議だった。