星の輝く夜に
「・・・は?」
彼はあっけにとられ、口をぽかん、と開けてしまった。
「驚かせてしまいましたが、これは事実です」
その女性は大まじめにそういうと、胸のポケットから、小さな紙片を取り出す。
「私は、こういう者です」
それを彼に手渡した。
彼はまじまじと、そこに書かれた文字を読む。
「・・・天使?」
「えぇ。この世界では、そう言った方が聞こえが良い、と聞いているので」
彼女は狭い後部座席で、足を組みかえた。
「もっとも、仕事内容は、この世界で俗に言われる『死神』に近いのでしょうけど」
「・・・」
目の前に女性がいることは、現実である。
しかし、その女性が口にしていることあ、あまりに非現実的である。
そのギャップに、彼の頭は理解に苦しんだ。
彼の顔に浮かぶのは、まさしく困惑そのものだった。
「皆、そのように驚かれるのです。当然でしょう、分かります」
「お客さん、タクシー代を支払わないための新手の手口かい?」
「まさか」
彼女は手にしていた黒い鞄から、黒い長財布を取り出し、
そこから1万円を取り出した。
「お釣りは取っておいて構いません」
思わず彼は灯りをつけ、手渡された1万円をそこにかざす。
お札は、ちゃんと透かしが入っている。
手持ちの1万円と比べてみても、形も図柄も同じだ。
どうやら、偽札ではないようだ。
「お客さん、どういう意図でそういう発言しているのかい?」
彼は、率直にそう尋ねた。