だけど、これは届かない


あっさり名前を言い当てられて私は動揺した。


誤解されたくないのだが、私は奇声を上げて授業妨害するような生徒ではないし、声だってどちらかと言うと普通より小さいほうだと思う。

だから初対面の相手に、そのようなことを言われるのは心外だった。


「声大きくないよっ!ね、先生?」

相変わらず仕事モードの塾長に同意を求める。


「うん、大きいよね」

「え?うそ」


私はずっと大きな勘違いをしていたと言うのか。


「よくここで友達と喋ってたじゃん。中入ってても聞こえた」

ここ、というのはこの塾の受付みたいな、まさに今私が立っている場所である。
カウンターの向こうに先生達の机があって、そのまた奥に塾長先生が座ってる。

「ごめんなさい」

知らないところで授業妨害してたのか…なんて愚かな自分。


「いいよ。うるさい、というか楽しそうでいいなーって思ってた」


初対面だったけど、この人は生徒に甘いということを確信した。
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