恋した私の負け(短)
「……行ってきなよ」
私の声にはっと顔を向ける。
「で、でも、」
「うじうじすんな、鬱陶しい。彩はあんたを待ってんでしょーが」
「……だよな」
離れていく体温。
つられるようにそっちを見ると、目が合った彼女がにっこり感じのいい笑顔を見せる。
私に向けて振られた手に、右手を少しだけ上げて応えた。
「なーにやってんだろ」
廊下に消えていった2人の姿を思い起こして自嘲。
机に顔を埋めて、沸き上がる想いに自分でも戸惑った。
悔しかった、悲しかった。けど、なんでか嬉しかった。
「バカだなぁ、私」
小さくひとりごちた声は、誰にも聞かれることなく風に攫(さら)われた。
end.