恋した私の負け(短)
「要さん、本気で寝てんの?」
「…………」
「かーなーめーっ」
「………………」
「せっかく、のんびり要と喋れると思ったのになぁ」
いつまで経っても彼は私にちょっかい出してきて。いつまで経っても彼女の声が教室に響かない。
何の前触れもなく起き上がった私に、彼の身体が一瞬ビクリと跳ねた。
「やっぱり嘘寝!」
狸寝入りを咎(とが)める声を聞き流して古びた丸時計に目をやると、長い針がちょうど“5”を指していた。
……おかしい。
「なんかあった?」
脈絡のない私の問いに、彼は大きくため息を吐いて微かに笑った。