何故か私、不良の彼女になりました
「おい」
しかし、それも威厳のある低い声によって現実に引き戻される。
「……」
(………はぁ)
もう少し忘れていたいと思った円香だが、不良相手にそんなことを言えるはずもなく。ましてや無視等もできず。
一気に負のオーラを全身に纏った彼女は、恐々と彼を視界に映した。
「…お前、名前は?」
唐突に訊ね、ひらりと金色の髪を揺さ振るように首を傾げる男は円香と視線を重ねる。
「あ…、え…と…」
ビクン、と肩を揺らし、目が自然と泳ぐ。肩も足も、腕でさえ緊張と恐怖でカチコチだ。
その間も、彼の眼差しから逃れることは出来ない。
ゆっくりと、男と目を合わせる。
その瞳は、不安、恐ろしい、怖いという感情しか映していなかった。
眉を寄せたまま、ひゅるっと口を開く。
「ひ、平山…、です…」
なんとか声を振り絞り、自分の名を名乗る。声も、震えていた。