君を忘れない
ここに来たら、一時間は歌い続けていた。

長いときには三時間くらいいて、原付で生田に帰っている途中に朝方で空が青くなってきたなんてことも何度かあった。



ここの都合のいいところは周りに民家がないということと、スーパーの駐車場ということだ。

スーパーは二十四時間営業なので、歌ってちょっと小腹が空いたりしたらスーパーでパンか何かを買えるから、気持ち良く歌えることと同じくらい便利だった。

あいつは大抵、コーヒー飲料に何かしらの蒸しパンを買って食べていた。




今は夏だが、今みたいに歌っていないときは山だからそんなに暑くはない。

けど、歌いだすとすぐに暑くなってきてしまうからアイスもよく買って食べたりした。

ハマは三個買って、一気に食べたせいで腹を下してトイレに行っては来たりして、朝になっても帰れないという日があった。



そんなあいつは今ここにいない。

あいつと最後に一緒に来たのは四月の二週目に入ろうかというくらいだった。

春だったが、原付で走るには若干寒くて長袖で走っていても着いたときには少し冷えていた。

確か温かいジュースを買って体を暖めたが、歌ったらすぐに暑くなって冷たいジュースを買いに行った。

いつもと同じように歌って、いつもと同じように馬鹿な話をして、いつもと同じような日。

そんな少し肌寒い日に僕たちは、夏の熱い約束をしたのだ。
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