君を忘れない
「疲れたー。

ちょっと、休憩しようぜ」


そう言い切る前にハマは地面に腰を下ろした。

十曲フルに通して歌うと流石に疲れる。


「なんだよ、たかだか十曲くらいで疲れるなよ」


そう言いながらも、僕もやはり疲れているので地面に腰を下ろす。

歌って体が火照っていたので、地面のひんやりとした冷たさがお尻と両手の掌に伝わってきて気持ちいい。

着いた当初は春といえど原付で走って寒くなっていたから温かいジュースを買ったが、今は冷たいものが欲しい。


「俺、ジュース買ってくる」


そう言って立ち上がると、こちらに満面の笑みを浮かべてきた。

なんとなく、言いたいことは予想はつくが・・・


「俺、いつもの」


やっぱり。

こういうのは最初に言い出したやつが負けだ。

勝ち負けとか、そういうことではないのだろうが、何だか負けた気分だ。

いや、損した気分という言葉が正しいのか?

どちらにせよ、気持ちのいい気分ではない。


「金は?」


「えっ、奢りじゃないの」


「なんで意味もなく奢らなきゃなんねえんだよ」


「ケチ!?」


そう言うと、笑いながら財布ごとこちらに投げてきた。

小銭ばかりで中身の金額以上に重い財布で、こいつの財布はいつもこうだ。

なんでも、小銭が多いときはいいことがあるらしく、小学生のときからずっとそうなのだと言う。

頑固者だから、何を言っても言うことなんて聞かないから、恐らくこいつの財布はずっとこのままなのだろう。


「じゃ、行ってくるわ」


空を見上げると、さすがは山に囲まれているとあって星が綺麗だった。
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