君を忘れない
「お前ら、まだいたのか?」


店に入ると、店長が暇そうに店内をうろついていた。

店長と呼んではいるが、本当に店長というわけではなく、僕とハマが勝手にそう呼んでいるのだ。

僕らがここに来ると、店長がいる確率が高く、話しているうちに仲が良くなっていったのだ。


「店長、相変わらず暇そうだね」


「いや、この時間帯で忙しかったら困るだろう」


確かに。

夜中の二時にこんなところが昼のように混雑していたら、困るというよりは驚きだ。

しかし、夜中のこの時間帯にこの広い店内に一人で何時間もいるのは寂しくないのだろうか。

僕は到底無理だな。



そんなことを考えながら、ハマのいつものコーヒー飲料と蒸しパン、それと僕が飲む炭酸飲料をカゴに入れてレジに持っていった。


「お前ら、さっきは温かいもの買ってなかったか?

歌ったら暑くなることくらい分かるだろう」


「別にいいじゃん。

この店の売り上げに貢献しているんだから」


そう笑いながら言ったものの、確かにその通りである。

けど、春とはいえ四月の頭で、夜中に加えて山に囲まれているこの辺は昼よりもぐっと気温は低い。

原付で走れば体は冷え込んでしまうのだから仕方がない。


「ほらっ。

あと少ししたら休憩に入るから『一人客が来る』って、あいつに伝えておいてくれ」


そう言って商品を渡してきた。

休憩に入るということは、少なくともあと一人ここにいるのか。

今その人は店に出ずに一体何をやっているんだ?


「了解。

何か差し入れよろしく」


笑いながら舌打ちする店長はノリがいいから、歌っていてこっちも楽しくなるか大歓迎の客だ。
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