君を忘れない
店から出ると、さっきと変わらずにあぐらをかいてハマは座っていた。

外灯の明かりが当たっているせいかその後姿は少し格好良くみえるが、そのことはもちろん本人に言うつもりはない。


「買ってきたぞ」


「さんきゅー」


いつものコーヒー飲料に、いつもの蒸しパンを渡す。

こいつはいつもこればかりだ。


「しばらくしたら、店長が来るって」


「マジで。

つうか、今この店にあの人以外に人がいるのかよ」


「それ、俺も思った。

こんなに暇なのにな」


そう言うと、二人で顔を上げて大きく笑った。

まぁ、店構えはデカいし、コンビニと違ってスーパーだから一人というわけにもいかないのだろう。



パンを一口かじったところで、急にハマは立ち上がった。


「あのさ、今考えていたんだけど、俺ら人前で歌ってみねえか?」


人前で?



正直、言っている意味と考えが分からない。


「カラオケか?

先週行ったばかりだろ」


人前で歌うという行為で咄嗟に出てきたのがカラオケだったのだが、どうやら違うようだ。

他に人前で歌うということとなると、まさか・・・



答えが大方見当がつき驚いた。

確かに歌うのは好きだけど、僕は人前で歌うほど上手くはないし、たとえ上手くても人前で歌うのは普通はカラオケだけだろう。


「人前って?」


出した答えがどうか間違っていてくれと思いながら、恐る恐るハマに聞いてみた。

僕の言葉を聞いて満面の笑みになっているのを見ると、悲しくもどうやらこの答えで合っているようだ。


「今やっていることをライブみたいにするんだよ。

もちろん、ちゃんとしたスタジオとかじゃなくて・・・・・

ゲリラライブって言えばいいのかな?」


一体、こいつは何を考えているんだ?



けど、少しだけ・・・

ほんの少しだけ面白そうだな。

いや、本当に少しだけだ。
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