君を忘れない
「普通に路上でやってもいいんだけど、やっぱり普通じゃ面白くないだろ。

ここでやっても店に迷惑がかかるし、それ以前にここじゃ人が集まらなさそうだしな」


無邪気に笑いながら、心から楽しんで考えているのがこっちにも伝わってくる。

この光景を今まで何度も見ているが、こういうハマはもう誰にも止められない。


「だからどこでやるんだよ。

早く言えよ」


「で・ん・しゃ」


耳に入ってきた単語が頭の中に入ってきたのだが、入ってきただけで理解ができずに言葉が出てこない。



今、確かに『でんしゃ』と言った。



恐らく、『でんしゃ』というのは『電車』のことだろう。



それ以外にない。



じゃあ、こいつは電車でライブをしようというのか。



ようやく頭が理解したところで、とんでもないところでライブをしようということを言ったことに気づき、慌ててハマのほうを振り向いた。


「名づけて『電車ライブ』」


ああ、何でこんなこと聞いてしまったのだろう。

そのネーミングセンスの無さも薄れるような、とんでもない考え・・・


「大学入ってさ、友達もめちゃくちゃできたし、ヒメやみんなと遊んですげぇ楽しいよ。

けど、どこか有り触れているんだよな。

折角、大学に来たんだから、俺は馬鹿なことを一つでも多くやりたいんだ」


馬鹿なことをやりたいと言っている割には、こちらを見るハマは真剣な顔だった。


馬鹿なことを一つでも多くやりたい・・・


これは、馬鹿なことではなく大馬鹿なことだろう。
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