君を忘れない
さきほどと同じように大きく息を吸い、今度は立ち上がって店のほうに店長は歩き出した。


「俺だって、どうしたらいいかなんて分からねえよ」


店長はこちらを向かず言った。

そして、また空を見上げ立ち止まる。


「・・・

分からねえんだ」


右手を上げて店に戻っていく店長の肩はパッと見は分からなかったが、よく見ると小刻みに震えているのが分かった。

俺だけじゃない、店長も分からずに辛い思いをしているのだ。

それを見て、涙が出そうになり堪えるので精一杯でこちらの肩も震えてしまった。


「お前だけが分からないんじゃない。

俺だってそうだし、あいつに関わっている全員がどうしたらいいかなんて正確に分かっているやつなんて一人もいねえよ。

もしかしたら、あいつ自身だって分かってないかもしれない」


その言葉に前を向くと、店長はまだ空を見上げていた。

ハマは戸田の病院でこの星空を見上げているのだろうか。

見上げているとしたら、どういう気持ちで見上げているのだろうか・・・

やっぱり、僕には分からない。


「とにかく、お前だけが分からずに苦しんでいるんじゃないってことだけは覚えておいてくれや。

あと、今度一緒にお見舞いに行こうぜ」


そう言うと、店長は店へと戻っていった。
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