君を忘れない
そんなことを考えていたらサビから間が空いてしまい、慌てて続きを口ずさもうとしたら急にヒメが立ち上がり俺が歌おうとした続きを歌い出した。



ただ、その場に立って歌っているだけ



誰がどう見ても、その光景に変わりないのだが、ただそれだけの光景が特別なものに見え、特別な音に聞こえる。

多摩川に向かって歌っているヒメに惹かれている自分がよく分かる。



けど、分からない。



決して、歌が上手いとは言えない。

それなのに、多摩川に向かって歌っているヒメに惹きつけられている。

こいつ・・・・・


「悪い。

つい知っている曲だったから、歌っちまった。

俺もまだ結構酔っているかもな」


全部歌い終わってから、恥ずかしそうに笑ってこちらを見てきたのはいつものヒメだった。

こいつとなら、俺は・・・


「つうか、お前が歌い出したんだから、途中から入ってきてくれてよかったのに」


何故だろう、胸の鼓動が速くなる。

いや、もう自分では分かっているのかもしれない、歌っているヒメを見て直感的に思った。

歌うことだけじゃない。

きっと、こいつとなら俺はたくさんの馬鹿ができるに違いない。


「ヒメ。

お前最高だよ。

卒業するまで、卒業してからもずっと親友だ」


ヒメの両肩に手をかけて大き目の声で言うと、ヒメは不思議そうな顔をしてこっちを見ている。

けど、すぐにいつもの笑顔に戻って、俺の両肩に手をかけてきた。


「当たり前だろ。

今更、何言ってんだよ」


二人して夜中の多摩川で大笑いした。



俺たちの歌は終わらねえよ。
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