君を忘れない

-9-

あの日から僕はずっと考えていた。



自分の人生の終わりが分かってしまった



自分の死が現実として目の前に現れた



そんな知多慧介という男のために、今の僕に何ができるというのか。

考えては苦しみ、考えては悲しみ、考えては自分の無力さを思い知る。

僕はなんて弱い人間で、なんて無力なんだろう。

こんなところをハマに見られたら逆に笑われてしまうだろう。

でも、今の僕はこうであることに変わりはない。情けない・・・



夕方の陽を反射し、水面が綺麗に輝いている。

五時になろうかという陽射しは、昼間とは違った輝きを放ち、あと一レースを残すのみとなった多摩川競艇場を照らし出している。

今日の最終十二レース・・・

優勝戦。

そのため、いつもに増して観客が多く残っている。



「何か・・・

ないかな」



ハマにしてやれること・・・

そして、今の情けない僕を変えてくれる、背中を押してくれるようなことがないかと動きまわり、苦しみもがいている。

胸がスッとするようなレースを見れば、何か分かるかもしれない。

そう思って、競艇を見に来たのだが・・・

このモヤモヤとした気分、情けない自分のほうが上回ってしまって、レースをまともに見ることができていない。

せめて、優勝戦だけはちゃんと見よう。
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