君を忘れない
しばらく沈黙が続いた。

いきなり突拍子もなく頭を下げられて困惑している小山だったが、わざとらしく大きなため息をついた。


「いや、そんな頭を下げなくていいですよ。

どうせ暇だし、俺でよければ全然付き合いますから」


「本当に!

ありがとう」


よし。

これで、また少し一歩踏み出せる勇気が出てきた。


「俺、バイト休みますわ」


「えっ?」


その返事に驚いて四盛を見ると、面倒臭そうだが笑顔でこちらを向いていた。


「いや、そんな悪いよ。

どうしたんだよ、急に」


ゆっくりとこちらに近づいてきて、僕の頭を鷲掴みのように掴んで小さい子供でもあやすように撫でてきた。


「あんたが俺たちにわざわざ頭を下げてまでお願いするってことは、余程の大事なことなんだろう。

どうしてもやりたいと思っていること、俺たちには意味なんか分からないかもしれない。

けど、俺たちが付き合うことでできるなら、バイトをサボってでも行く価値はあるだろう」


その言葉に胸が熱くなった。

四盛にこういうことを言われたら、今まで堪えてきた涙が一気にあふれ出てきそうになってしまう。


「お前、ちょっと格好つけすぎ。

本当はただ単にバイトをサボりたいだけだろ」


「まぁな」


頭を掻きながら照れ笑いをする。

小山の質問で、そんな大層なことを言っていないような仕草をするが、恐らく最初に言ったことが本心なのだろう。

こいつはそういう奴だ。

そういう素振りを見せないが、いつも周りのことを人一倍気にかけてくれているのだ。
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