君を忘れない
「なぁ、兄ちゃん」


窓の外を眺めていると、おっちゃんが横に来て話しかけてきた。


「俺はもうこの先・・・

長くはない。

医者や家族はそんなことはないって言っている。

だけど、自分の体だ、自分が一番分かっているさ」


話している目が遠くを見ているようだ。

まさか、この人が最近元気がない理由をこんな形で聞き、こんな結果とは思わなかった。

この病室で一番重い病気を患っているのは俺だと思い込んでいたし、俺だけが死に直面しているものと間違いだった。


「はっきり言って欲しいんだ。

医者ならまだしも、なぜ家族にまで嘘をつかれなければならない。

せめて、せめて家族だけは本当のことを言って欲しい。

俺のことを一番理解しているだろう家族にまで嘘をつかれたらどれだけ辛いか。

家族にまで嘘をつかれたら、一体誰が俺に本当のことを話してくれる」


遠くを見ている目からは涙がこぼれていた。

きっと、この人なりに家族のことを考えているのだろうし、家族もこの人のことを考えてのことなのだろう。

お互いがお互いのことを考えてのことなのだから、本当のことを口にすることができないのだろう。
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