君を忘れない
もう十分だ。



消灯の時間になり、電気を消してベッドに横になる。

東京に思い残すことが何一つないと言ったら嘘になるが、ここが引き際なのかもしれない。

まだ自分の力で歩くことはできるが、それももう長くはないだろう。

いつまでもここにいても俺には何もできずに死を待ち、その姿でみんなに気を遣わせるだけだ。

笑って話せた・・・

愛知に帰るには今このタイミングがベストだろう。



本当に大学に来てからは楽しい日々ばかりで、毎日が楽しかったのではないかと思えるくらい楽しかった。

たくさんの友達に出会い、俺は本当に幸せ者だった。

同じ二十二歳の奴らに比べて、尺の濃さは誰にも負けていないと偉そうには言えないけど、絶対に上位にはいると胸を張って言える。

それくらい、俺は自分の人生を謳歌してきた。

後は、より一層上位に入れるように死ぬまでに、まともな人間じゃなく馬鹿な人間としていられたらいい。


「上位に入れるよう、って」


口に出して、うっすらと笑ってしまった。

別に誰かと勝負やレースをしているわけでもないのに『上位に入れるよう』という言い方が、後から面白おかしくなってきた。
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