君を忘れない
ベッドの上の照明をつけ、引き出しの中からボールペンと便箋を取り出す。

先月、病院の売店で買っておいたもので、愛知に帰るとき手紙を残しておこうと決めたのは買うほんの少し前だった。

その手紙がただのノートの切れ端やメモ帳では寂しいと思って買ったこの便箋が、ついに使われるときがきた。



いざ、ボールペンを持ち便箋と向き合ってみると、意外と書けないもので頭を悩ませる。

何も書くことがないというのではなく、逆に書きたいことがありすぎて、どれを書けばいいのか、どこから書けばいいのか分からない。

ペン先が便箋に触れては頭を掻き、また触れては掻く・・・

この動作を何度も繰り返すうちに十五分は過ぎた。


「いっそ、全部書いちまうか」


と言いながらも、書き出すのに未だに苦労している。

本当に全部書いたら、一体どれくらいの時間が掛るのだろうと思い、その途方もない量にふっと小さく息を吐き、またペン先が便箋に触れる。

こんなに改まって手紙を書くという行為を今までしてこなかった。

大学生活のなかだけでなくとも、小さいときから一度くらいは書いておくべきだったなと、今更ながらちょっと後悔した。

本当に今更だよ・・・
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