君を忘れない
「知多さん、どんな顔するだろうね」


朝の通勤ラッシュの時間と重なり、満員電車の中にも関わらず笑顔でかよっぺが話しかけてきた。


「さぁ、分からないよ」


素っ気ない返事をしたが、きっと僕の顔も笑っているであろう。

かよっぺを見ると、笑っているというよりは嬉しそうにこちらを向いていた。


「久しぶりだな。

こんな笑顔のトラさん見るの」


久しぶり?



その言葉に戸惑ってしまい、恥ずかしそうに視線を車窓のほうに逸らした。

自分ではいつも笑っているつもりなのだが、最近はそんなに笑っていなかったのだろうか。

そういえば、以前にもかよっぺには同じようなことを言われた気がする・・・


「そうか。

いつも笑っている気がするけどな・・・」


「こっちの話」


そう言うと、広告の方に目を映し、小さく照れ笑いをした。

不思議そうに覗き込む僕は無視して、ずっと広告を見ているので仕方なく車窓に目を戻すと、ニヤニヤしている自分の顔が映し出された気がした。



・・・



満員電車でニヤニヤしているのは少々気持ち悪いので、少し気を引き締めていこう。


「次は代々木上原、代々木上原です」


代々木上原で人は結構降りるから、ようやく少しは楽な姿勢になれそうだ。



大学に入って四年目だが、この満員電車だけは未だに慣れない。

けど、普段なら満員電車に乗るのは憂鬱だが、今日は全く苦痛にも感じない。

早く着かないかな・・・
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