君を忘れない
「色黒のねえちゃん。

やっぱり、来たか」


僕を女と勘違いしているおっちゃんが病室に戻ってきたようだ。

もしかしたら、この人なら何かを知っているかもしれない。


「あの・・・」


「そこのにいちゃんだろ?」


僕がハマのことを聞こうとしたのと同時に、向こうが切り出した。

やはり、何か知っているのか、それとも何か預かっているのだろうか。


「にいちゃんな・・・

昨日、ここを出ていったよ。

何でも実家のある・・・

どこだっけな?」


「愛知ですか?」


「ああ、愛知。

うん、確か愛知って言っていたな」


なんてことだ。

昨日帰ったって・・・

そんなドラマのようなことがあるのか。



なんで・・・



なんで、あと二日早く思い立たなかったのだろう。

いや、せめて昨日やると思っていれば、電車ライブに連れていけなくても最後にあいつに会えたかもしれない。



静かに去っていくだって?



そんなの・・・

そんなのは、去っていく奴の自己満じゃないか。


「くそ・・・」


その声は驚くほど元気がないのが自分でも分かった。

かよっぺが心配そうな顔をしているが、こんな状態で気丈に振舞われるほど大人ではない。

こんな気持ちで電車ライブなど・・・

できない。
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