君を忘れない
封筒を開けようとするが、あと一歩何か踏み切れない思いが胸の中にあり、なかなか開けることができない。

いつも明るかったあいつが、もしかしたら辛い思いを書いているのかもしれない。

もし、書いていたら・・・

最後の思い出が余計に辛くなってしまう。



それが、怖かった



「大丈夫。

きっと、知多さんは辛いことなんか書いていないよ」


封筒を開けようとしながら動きを止めていた両手を、かよっぺが優しく握り締めてきた。



・・・



・・・



それでも、開ける決心がつかない。

これを開けてしまったら・・・



そのとき、左肩にかすかだが人の手のような感触がした。

それは、とても優しく叩かれたような感触。



かよっぺは僕の前に立って、両手で僕の手を握り締めている。

おっちゃんは、かよっぺの後ろで僕らを見守っている。


 駄目だよ、開けなきゃ


 開けないと、ずっと後悔しちゃうよ


分かったよ・・・



ようやく、封筒を持っていた右手を動かすことができ、入っている便箋を取り出し、あいつの残した手紙を読み始めた。
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