君を忘れない
「馬鹿やろう・・・

こうやって、泣き合ってもいいじゃないか。

静かに去らなくたって、泣き喚いても、どんな形でも、騒いで去っていってもいいじゃないか。

最後に・・・

最後に」


きっと、全くの他人が見たら思わず口に手を当ててしまうくらい泣き崩れた。

冷静になんてなれやしないけど、ただ文句だけを言うのは嫌だ。

僕たちはそんな仲じゃなかった。

あいつとの思い出は数え切れないくらいあって、その一つ一つを、脳がものすごい回転をして、全部思い出している。



「自分より遅いタイムのサークルの三人の先輩に生意気と言われたから喧嘩した」と言いながら、青あざのついた顔で出会った日



告白したあと、ハンバーガーの店で見守っていた僕らに向かって、顔を赤面にしながら照れ笑いだけど満面の笑みで両腕で大きい丸を作ったときのこと



夜中に学校の九号館前の広場で一緒に大の字になりながら「女なんて星の数だけいるさ」ってベターだけど、今時誰も言わないような恥ずかしいセリフを振られた友達に恥ずかしがらずに言って慰めていたときのこと



パチンコで勝って、一人五杯ずつと言って牛丼大盛を大量に買ってきて、DVD観ながら食べたときのこと



いつだって、どんな下らないことでも笑い合えた。

そのなかで時折見せる真剣な表情はとても格好良く見え、その表情のときの行動はやっぱり格好良かった。

そんな知多慧介という一人の男に、僕は惹かれていたのだ。



他にも、まだまだ思い出はあるけど、一番の思い出はやっぱり・・・


「最後に、もう一度だけお前と歌いたかった」


涙は・・・

いつになったら止まってくれるのだろうか・・・
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