君を忘れない
「お前、いつ愛知に帰るんだ?」


「えっ?」


おっちゃんには地元が愛知とは一言も言っていなかったので驚いた。

しかし、ほんの少しの間で頭が整理され、恐らくヒメが教えたのだろうということが分かった。


「もう手続きは終わっているから、明日か明後日には行くつもり。

母親もそのつもりで準備しているだろうし」


もう、明日か明後日にはここを離れていくのだな・・・



自分で言って、少し寂しくなってきた。

ここを出てしまったら、もう二度とここに来ることはない。

大学時代の最高の時間を過ごした街を見ることもない。



そう考えたら、無性に向ケ丘遊園に行きたくなった。

学校に、生田に行って、最後にこの目に焼き付けたくなった。


「最後に・・・

大学時代過ごした場所くらいは見てから行くかな」


自分に言い聞かせるように呟いた。

これくらいのことは許されるだろう。


「そっか。

じゃ、お前とはこれが最後になるな」


二人に太陽の陽射しが降り注がれ、さきほどまでとは少しだけ暖かい空気が体を巡るような気がした。


「そうだな」


何故だろう。

お互いの最後というのに寂しい顔などせずに、お互いが笑っている。


「おっちゃん、元気でな」


「おう」


そう言うと、おっちゃんは背中を向け病室の入り口へと足を進めた。


「おっちゃん」


おっちゃんの足が止まる。

しかし、こちらを向き直してはこない。

視界が少し滲んでいるから、向き直してこないほうが俺も助かるし、きっと、おっちゃんも見られたくないのだろう。


「お互い・・・

最後まで最高の馬鹿でいような」
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