君を忘れない
「そろそろ、人が少なくなってきましたね」


千葉駅を出てから結構な時間が経ち、車窓から見える景色もビルが並ぶような景色でなくなっていた。

車両を見渡すと、乗車しているのはせいぜい十二・三人といったところか。

そろそろだな。


「よし」


そう呟いたものの、緊張というものはそう簡単に無くなってくれない。

たかだか、十二・三人といえど赤の他人だ。



なかなか立ち上がることができない。

ここまで来て「やっぱり無理だ」なんて、最悪のことだけはしたくないのに、緊張のあまりに足が重く立ちがることを許してくれない。


人を勇気づけるための行動というのは、こちらもかなり勇気がいります


その時、頭の中に先日の多摩川競艇場で優勝した選手の言葉が頭の中に甦ってきた。


だけど、勇気を出している行動だからこそ、人を勇気づけられると思います


そうだ。



僕が勇気を出して行動しないと、あいつを勇気づけられるわけがないじゃないか。



そのとき、足が・・・

軽くなった気がした。
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