君を忘れない

-14-

外に出ると強い八月の日差しが容赦なく体に襲い掛かってきた。

その強い日差しと暑さのなか、駅まで続く道の先に若いカップルが腕組をして歩いているのが見える。


「この暑いのによくやるよ」


思わず笑ってしまった。


(あいつらの腕はかなり汗ばんでいるんだろうな)


そう思うと、笑が更にこみ上げてくる。



笑い終えたところで後ろを振り返り、短い間だったがお世話になった病院を見渡す。



おっちゃんは最後をどういう形で迎えるのだろうか。

それまでに家族は本当のことを話してあげられるのだろうか。



そんなことを俺が考えてもしょうがない。

そういや、おっちゃんとの最後は意外にも随分と真面目だったな・・・



おっちゃんの病室が見える駐車場へと移動し、深呼吸を二度してから携帯から着うたフルを流した。

ヒメの手紙に入れたマイクロSDカードにも入れておいた曲を病室に向けて歌う。

おっちゃんは病室にいないかもしれないけど、これが俺のおっちゃんに対する別れだ。



駐車場で歌ったのに恥ずかしいという気持ちはなかった。

暑い日差しは相変わらずで、歌ったということでさっきよりも汗をかいている。



この日を俺は忘れない。


「じゃあな、おっちゃん」


深々と頭を下げて、駅へと向かった。
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