君を忘れない
三人で話しながら各駅停車で帰っているあいだ、やはり美波のことが気になった。

人前では決して悲しい表情を見せずに、今日の僕やサークルのみんなに対しても笑顔でいた・・・



けど、一人になったときはどうだろう。

同棲をするくらいお互いのことを好きだった関係なのだから、一ヶ月くらいで立ち直れるのだろうか。

もしかしたら、泣きたくなるくらい悲しくて、辛い思いをしているかもしれない。


「ねえ、人の話聞いてる」


「えっ」


「やっぱり、聞いてなかった。

今日のトラさん、考え事してるけど何かあったの」


「別に大したことじゃないよ」


とは言ったものの、まだ心配そうな顔をしてこちらを見ている。

一体、彼女にはどうしたら上手いこと誤魔化せるのだろう。

こんな状態じゃ、アパートでもきっと心配をかけてしまい、折角聞きたいことも話せないまま二人は帰ってしまいそうだな。


(うん、やっぱりこれしかないな)


そう思い、ラケットバックからアパートの鍵を取り出すと、アパートのある駅に近づいてきたようで電車の速度が徐々に遅くなっていった。


「俺、ちょっと用事があってしばらく出るから勝手に入ってていいよ。

四盛も後から来るから、もしかしたら俺よりもあいつのほうが先になるかもしれない」


かよっぺに鍵を渡して、電車を降りた。

何も言わずに黙って受け取ってくれるところが有難かった。



謝りに行こう。



美波の家までここから12,3kmくらいの距離だから原付で30分くらいだから、そんなに夜遅くになるということはないはずだ。

謝ったあと、どんな言葉をかけていいか分からないし、もしかしたら何もかけてやれないかもしれない。

けど、今日のことだけはちゃんと謝ろう。
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