君を忘れない
さっきの電話から二十分くらいが経っただろうかというとき、トラさんから二度目の電話がきた。

その電話で家を出て、いつもの公園へと向かう。

いつもといっても、そんなに何度もトラさんが来ているわけではないが。


「ひゃあ」


公園に着き、トラさんを探し始めようとした瞬間に首筋に冷たい感触が走り、思わず大声を上げてしまった。


「わりい、わりい。

まさか、こんなに驚くとは思わなかったよ。

それにしても、予想以上に面白い反応するな」


笑顔でそう言いながら、持っていたペットボトルを私に差し出した。

随分前に私が好きだと言っていたジュースを覚えていてくれたのか、ただの偶然なのかは分からないが、私は差し出された好きなジュースを手に取った。


「不意にそんなことされたら誰だって叫びますよ。

それより、どうしたんですか」


いきなり本題を切り出してしまったからか、トラさんは恥ずかしそうに下を向いてしまった。

こうして見ると、この人は本当に女の子みたいだ。


「今日はごめんな」


その言葉に驚きトラさんを見ると、まだ頭を下げていた。


「俺、美波たちが別れたこと知らなくて。

サークル前にひどいこと言って、本当にごめん」


そう言うと、下げていた頭を更に下げてしまった。


(そのことだったのか)


あんなこと全く気にもしていなかったのに、この人は悪く言えば馬鹿だけど、人一倍気を使っている友達想いの人だ。
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