君を忘れない
「トラさん、ちょっと機嫌がいいね」


こちらを見ずに履歴書に目をやりながらかよっぺが言い出した。

自分では全く気づかなかったが、今の僕は機嫌がいいのだろうか。


「そうか」


首をわざとらしく傾げ、壁にもたれた。


「雰囲気で分かるよ。

私たちどれだけ一緒にいると思っているの」


おいおい、その言い方はさきほどと同様全く知らない人が聞いたら、誤解を招くような発言じゃないのかな。


「確かに、トラさんはいつも笑っているから表情にはあんまり出ないけど雰囲気で分かるからな」


小山もこちらを見ずに話してきた。

雰囲気って、そんなので分かるものなのか。


「俺らだから分かるけど、普通の人には分からないよ」


三人揃って同じようなこと言って。

普通の人には分からないって、お前らは一体何なんだよ全く。


「いい感じで写っていたでしょ」


「えっ」


かよっぺが言ったことが何のことなのか分からなくて思わず声を出した。


「その反応を見ると、写真見て機嫌がいいって訳じゃないみたいね」


写真、一体何のことだか分からない。

何の写真だか分からないし、写真なんて誰からも今日は貰っていないぞ。


「写真って合宿の写真のこと?

俺、まだ貰っていないよ」


「違うよ。

今日の朝にポストに入れておいたじゃない」


今日は授業に遅刻しそうだったから慌てて部屋を出たし、サークルに行くときも美波が一緒だったから・・・

今日はポストを一度も見ていない。

急いでポストの中身を確認しに行くと一枚の封筒が入っていた。
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