君を忘れない
「呆れた。

ポスト見ていなかったの。てっきり、写真見てそれで機嫌がいいと思ったのに」


かよっぺが呆れた顔をしている。

本当に自分でも呆れたやつだと思う。

そう思いながら封筒の中に入っている写真を取り出す。


「あっ」


満面の笑みのかよっぺの笑顔を見てから、もう一度写真に目をやる。



「いいでしょう。

写真のトラさん、いい表情しているよ。

あのとき、格好良かったもんね」


写真の中には電車の車両で歌っている僕がいる。

それをほとんどの人が聞いていてくれて、見ていてくれて、盛り上がってくれている。

あの日のことが鮮明に甦ってくる。

あの、暑かった八月三日の日のことが。


「まさか、本当にやるとは思わなかったですけどね。

でも、見ていて少し羨ましかったな」


キッチンで皿を洗いながら四盛が言う。

いつもなら、また人の皿とキッチンを勝手に使いやがって思うのだが、今はそんなことどうでもよかった。


「そのあとの打ち上げも楽しかったですね」


その言葉を小山が発した途端、感動が少し薄れていった。

電車ライブの打ち上げといえば・・・


「というか、お前らひどいんだよ。

何で、電車ライブ終わったあとにカラオケに行くかな」


そう、あの日僕は散々歌って疲れていたというのに打ち上げでカラオケに連れて行かれたのである。


「だって、トラさん見てたら無性に私たちも歌いたくなって」


三人は打ち上げの場所を決めるとき、揃いも揃ってカラオケと言い、僕の意見をそっちのけでカラオケに行き、結局は朝までずっと歌い続けた。

つまり、僕は一日中歌っていたことになる。
< 190 / 203 >

この作品をシェア

pagetop