君を忘れない
「美波ってさ、可愛いし、性格も悪いって子じゃないけど、ちょっと変わったところがあるよね。

時々、一人で映画のワンシーンとか真似したりするし」


そう言われると、確かに美波が時々そういうことをやっているところを見たことがある。

しかも、演技しているときの美波は悪ふざけをしているという雰囲気ではなく、かなり真剣な表情だ。


「そういえば俺も見たことあるけど、演技めちゃめちゃ上手いな美波って。

大分前にだけど、見かけたとき思わず見入っちゃったよ」


これは事実で、実際に5分くらいだったけどその場で立ち止まってしまったことがある。

もしかして、美波は・・・


「まあ、それはいいんだけど。

美波ってあいつと付き合っていたとき、同棲していたじゃない。

それが先輩たちはあまりいい風に思っていなかったから」


かよっぺがその話をしながら表情が曇りがちになった。


「だから、なんだよ。

かよっぺもそんな風に思っているのかよ」


一度だけ、僕たちの学年の女子が美波のことをそういう風に言っていることを聞いたことがあるが、僕はそんな風には思わない。


「そういうことじゃないよ。

実際は美波よりもあいつのほうがべったりだったことは私たちには分かるけど、先輩たちは逆に思っていて誤解しているじゃない。

別れたことだって先輩たち絶対に影で何か言っているだろうなって思うと、美波が凄く可哀想に思えて」


そこまで言うと、動かしていたペンを止めて上を見上げてため息をついた。

そう思っているかよっぺにこれ以上強い口調で言うことはなく、僕もため息をついた。


「女って、そういうことに関しては本当に怖いのよ」


そう言うと、再びペンを走らせた。



男の僕には分からないことだ。

美波は本当にいい子なのに、何故そんな誤解をされなければいけないのだろう。

美波・・・また、サークルに来いよ。

サークルに来て、みんなで笑い合おう。
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