君を忘れない
ダメだ


ここに来たのは逆効果だったようだ。

我慢していた涙が、無意識のうちに流れてきてしまった。


「私、一体何しているんだろう」


そう呟くと、余計に涙が出てきてしまった。

あまりにも涙が出てくるから、顔を伏せていると後ろを歩いていく二人のひそひそとした声が、私を馬鹿にしているように感じて腹立たしくなる。

でも、これは全て私が悪いことなのだ。

だから、人に腹を立ててはいけない。

こんなときに冷静な自分がたまらなく嫌だった。


「お前、何で死んじゃったの」


夜景を見ながら好きな小説を読み上げる。

小説では夜景を見ながらの場面ではないのだが、不意にこの場面が頭の中に浮かんできた。


「本当は俺だってすげえ辛かった。

まあ、死ぬことは考えなかったけど」


ベンチから立ち上がり、その人物になりきって台詞を読み上げる。

台詞を読み上げるというよりは自分自身の言葉のように声を出す。



この瞬間が私は一番好きだ。



自分が物語の登場人物になれる。

しかも、自分自身で作り上げていくことができるのだ。

私がその人物に命を吹き込むのだ。
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